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プロセス評価因子SELECTについて-2

プロセス化学

みなさんこんにちは!


前回は、プロセスを評価する因子である「SELECT」の紹介と、その1つであるS(安全性)について解説しました。


続きを解説していきたいと思います。


Environmental(環境負荷)
人々の健康に貢献するために原薬を製造するにも関わらず、その製造により環境に負荷をかけてしまっては持続的な開発が出来ません。
環境に配慮したプロセスを開発する必要があります。

環境に配慮したプロセス開発に関しては、以前別の記事で紹介しました。
アトムエコノミー、E-ファクター、グリーンケミストリーなどがキーワードでしたね。
これらの単語が何を意味しているのかがよくわからない方は、過去記事をぜひご覧ください。
http://eggman87.com/greenchemistry/


Legal(法規制)
医薬品は人々の体内に入るものです。
当然、その品質の信頼性を保つために、医薬品の製造では多くの法令によって規制されています。
医薬品に関する法規制には薬機法、GMP規則などがあります。
最終目的物である医薬品だけでなく、使用する原料、中間体、試薬や溶媒の取扱いに関する規制などがあります。
法の名称は安衛法、化審法、消防法などです。全て覚える必要はありませんが、何をするにしても、法により規制されているという自覚を持つことが大切です。

また、特許にも注意する必要があります。
他社が所有する特許権に抵触する「化合物」や「製造法」を用いて原薬を製造することは知的財産権の侵害となります。
もし侵害してしまった場合、製品の差止めや損害賠償請求など企業にとって甚大な被害を被ることとなります。
したがって、合成中間体や合成法が他社の特許に抵触していないか常に留意する必要があります。


Economy(経済性)
患者さんの健康に貢献するために原薬を製造することは何よりも大事ですが、企業の利益に貢献することも大事なことです。
医薬品の利益率を表す指標の一つとしてCoG (Cost of Goods)があります。
CoGは次の式のように定義されます。

CoGは低ければ低いほど良く、平均値は約25%です。
しかし、開発初期にこれらを予測するのは非常に難しいです。
そのため、薬効の強弱で大まかに見積もります。
薬効が非常に強い場合には、1日の投与量が少量であると予測されます。そのため、原薬製造費が多少高額になっても目標のCoGは達成できるのではないか、程度にざっくりと考えます。
原薬製造費は、原料費、製造実施費や設備の減価償却費などを足し合わせた費用です。


Control(品質制御)
不純物を多く含有する医薬品と不純物を含有しない医薬品、みなさんならどちらを口にしたいでしょうか?
聞くまでもないですね、医薬品はきれいであればあるほど好ましいです。
医薬品に含有する不純物やその対策については過去記事で解説しました。
有機不純物、光学異性体、無機不純物、残留溶媒、変異原性不純物などがありましたね。
まだ見たことがない、見たけど忘れてしまったという方がいたらぜひご一読ください。
http://eggman87.com/api-impurity/


Throughput(生産性)
生産性が低ければ、原薬を製造するために長時間を要し、製造実施費(人件費など)が増加します。
生産性を向上させるにはどのような方法があるでしょうか?
まず、単純に収率を上げることが考えられます。
反応収率を上げたり、後処理でのロスを減らしたりすることで収率の向上が達成されます。

また、原料の仕込み量を増やすために溶媒量を削減するという方法もあります。
釜の容量は決まっているため、原料の濃度を濃くし、原料を多く仕込めるようにします。しかし、濃度が濃くなることで不純物量が増える可能性があることに注意する必要があります。
後処理においては、分液の回数を減らすなどの方法があります。さらに直接晶析といい、反応終了後、分液をせずに貧溶媒を滴下し、目的物を晶析させるといった手法も用いられます。

ここまでは、反応の効率化について書きました。


続いて、製造スキームの効率化について説明します。
まずは、合成に必要な工程数を減らすことが挙げられます。合成に7工程必要であったところを、最新の有機化学の知見を駆使し、5工程に短縮したとなれば、これだけで効率化が達成されます。
また、ワンポット反応やテレスコーピングの活用といった手法があります。
ワンポット反応は聞いたことがある方が多いと思います。反応終了後、後処理をすることなく次の反応剤をいれ、1つの反応容器で連続的に反応をおこなう方法です。
対してテレスコーピングは、1つ目の反応終了後、後処理は実施します。しかし、乾燥・取り出しまで実施する前に、次の反応に用います。
具体的には、抽出後、抽出液の濃縮後の溶液を次反応に用いるという手法がよく取られます。
たかが乾燥を省略できるだけか、と思った方もいるかと思います。
しかし、乾燥と一言で言っても、乾燥の仕込み、乾燥、乾燥終点の確認(GCの分析)など非常に時間がかかります。
ワンポット反応やテレスコーピングを活用するだけで、生産性は格段に向上します。



以上、SELECTについて1つ1つ説明しました。


良いプロセスとはなにか?という問いに対しては


SELECTの全ての因子を十分に満たすプロセスであると自信をもっていえるようになりましたね。


本日も読んでいただき、ありがとうございました。


プロセス化学
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