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プロセス評価因子SELECTについて


みなさんこんにちは!


本日はプロセスを評価する因子である 「SELECT」について解説します。


プロセス化学がもとめられる、効率のよいプロセスとはどんなものでしょうか?


工程数が短い、総収率が高いといったことはもちろん大事です。


しかし、プロセス開発で大事なことはこれだけではありません。


よく用いられる評価因子は、その頭文字をとってSELECTと呼ばれます。

Safety: 安全性
Environmental: 環境負荷
Legal: 法規制
Economy: 経済性
Control: 品質制御
Throughput: 生産性

です。

これらのうち1つでも欠けると、それは良いプロセスとは言えません。


安全性が低ければ、せっかく人を救うための薬を作っているのに、爆発事故等で作業員が怪我をしてしまいます。


環境負荷が大きいプロセスであれば、原薬を作れば作るだけ環境に負荷をかけてしまいます。


法規制に従わなければ、販売する権利が与えられません。


経済性が低ければ、企業の利益にならず、持続的な開発が出来ません。


品質制御が出来なければ、原薬を作るたびに品質がバラツキ、患者さんは安心して薬を服用することが出来ません。


生産性が低ければ、医薬品をタイムリーに提供できないということにも繋がります。


以上説明したように、SELECTのいずれかが欠けるとそれは良いプロセスとは言えません。


プロセスを開発する際は、SELECTそれぞれについてしっかり満たしているかな?ということを常に意識しましょう。


それでは、SELECTの因子1つ1つについて、詳しく見ていきましょう。


Safety(安全性)
安全性についてですが、これは極めて重要な因子です。
人を助けるために、危険なプロセスを開発して事故を起こしては本末転倒ですからね。
製造量の少ない初期段階から常に注意するべきです。


まず、取り扱う化合物に関しての情報を収集します。
安全データシート(SDS)は取り扱う前に必ず読みましょう。
SDSには有害性情報や取り扱い方などが記載されています。
また、混色危険等も記載されていますので、反応の危険性を予測することにも役立ちます。
この化合物はいつも使っているから安全という誤解をしがちですので、今一度取り扱っている試薬のSDSを見てください。新たな気付きがあるはずです。
SDSは購入先のホームページから簡単に入手することが出来ます。


続いて少量でのスクリーニング試験を実施します。
よく用いられる機械が示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry, DSC)です。
DSCは簡単に言うと「何℃でどれくらいの発熱・吸熱量があるか」ということを定量的に測定できる機械です。
取り扱う化合物、反応液のDSCを測定することで熱的挙動が分かります。
もし、比較的低温で発熱挙動が見られたり、高温でも大きな発熱を伴うという結果が得られた場合には、安全とは言えないため、より詳細に検討することになります。


また、経験則ですが、100 ℃則という指標があります。
これは、反応を実施する温度が、反応系の発熱開始温度よりも100 ℃以上低いものであれば、危険性は低いといえる法則です。


例を見てみましょう。

DSCの測定により、150 ℃で発熱がおこる反応系があるとします。
反応を30 ℃で実施する場合、発熱がおこる150 ℃まで120 ℃(> 100 ℃)あるため、危険性が低いと言えます。


反応を70 ℃で実施する場合、発熱が起こる150 ℃まで80 ℃(< 100 ℃)しかないため、危険性が高いと言えます。
しかし、あくまでこれは経験則であるため、プロセス化学者としてはやはりデータで示す必要がある点に注意してください。


DSCなどで危険性が高いと評価された場合、高次評価に進みます。
MultiMaxRC-1などを用いた数g以上での反応熱量評価を実施します。
これによりその反応における熱的挙動を精査します。


筆者はRC-1を使用した経験がありますが、とてもおもしろいです。
発熱反応の熱的挙動のデータを取得したのですが、試薬を添加するたびに発熱挙動がリアルタイムで観測され、感動しました。
RC-1からはいろいろな熱的挙動のデータが得られますが、
その中で断熱温度上昇というものがあります。
これは、読んで字のごとく、断熱状態(熱の出入りがない状態)でその反応系は何℃上昇するのかということを示す数値です。


例えば、断熱温度上昇が30 ℃であるというデータが得られたとします。
発熱反応の場合、製造釜のジャケットに冷媒を流して、内温が想定以上に上昇することを防ぎます。
しかし、機器トラブルで冷媒が流れなかった場合、熱の出入りが起きないため(断熱状態のため)その反応系は30 ℃上昇してしまいます。
そのため、溶媒の沸点から逆算して反応温度を決めるということが良くあります。
エタノールを溶媒として用いる場合、沸点が78 ℃で、断熱温度上昇が30 ℃だから反応温度は40 ℃にしよう、などです。これなら、40 ℃で反応中、機器トラブルで冷媒が流れなくても、70 ℃までしか上がらず、溶媒の沸点に達することはないですからね。


以上、Safety(安全性)について解説しました。


1つの因子しか説明できていませんが、長くなってしまったので、今回はここで切ります。


次回以降で別の因子について解説しますので、よかったら見てください。


それでは、本日も見ていただきありがとうございました。

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